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暮らしと季節

マンションのなかの和室――残す家庭と、消える家庭

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マンションのなかの和室――残す家庭と、消える家庭

和室は消えたのか

集合住宅の間取り図から、和室が静かに消えつつある。不動産経済研究所が公表する首都圏マンション市場の年次動向や、国土交通省の住生活基本計画関連資料を突き合わせると、新築マンションにおける和室の設置率は一九九〇年代以降継続的に下がっており、二〇二〇年代に入って下がり幅が再び大きくなった。

ただし、「消えた」という表現は正確ではない。設置率は下がっているが、特定の価格帯や特定の間取りでは依然として根強い需要がある。消失ではなく、偏在化が起きている――これが近年の住宅建築誌の主な観察である。

なぜ和室は落ちたのか

和室が設計から落ちる理由は複合的だが、住宅関連の取材記事と建築家へのインタビューを総合すると、大きく二系統の要因がある。

一つは生活様式の変化である。椅子座の生活が主流化し、リビングダイニングが家の中心になるなかで、畳の上で生活する時間そのものが短くなった。もう一つは維持の手間である。畳は定期的な裏返しや表替えが必要で、フローリングより手入れが面倒だという感覚が、とくに子育て世帯に広く共有されている。

結果として、和室は「谷崎が『陰翳礼讃』で描いた陰影の空間」としてではなく、介護用途やゲスト寝室のような機能的オプションとして語られることが多くなった。

残す家庭の二つのパターン

それでも和室を選択的に残す家庭は存在する。住宅建築誌や『新建築 住宅特集』の事例取材から浮かぶのは、大きく二つのパターンである。

一つは「客間」型。祖父母世代の宿泊や年中行事の場として、儀礼的機能を担う和室である。もう一つは「納戸」型。日常的には物置に近い使われ方をしつつ、必要に応じて開放するという柔軟な運用をする。客間型が儀礼の空間だとすれば、納戸型は余白の空間である。

坂茂の「高級化」論

プリツカー賞を受賞した建築家坂茂は、公開のインタビューや自著で、和室と畳をめぐる近年の変化を「消失ではなく高級化」と表現してきた。かつては当たり前だった畳敷きが、いまでは特別な住宅でのみ採用される素材になった、という観察である。

この見方は、和室の絶対量の減少と、高級住宅での維持という二つの現象を同時に説明する。量と質の反比例、と言い換えてもよい。

一方で――畳の再評価の萌芽

坂茂の高級化説に対して、一部の住環境研究者は、畳の断熱性や床衝撃吸収性といった住環境性能を根拠に、量的な再普及の可能性を論じてきた。とくに乳幼児の転倒時の衝撃吸収や、高齢者の寝具下の床素材としての性能は、医学・人間工学系の研究でも言及される。高級化と再普及は、論理的には両立しうる。

畳の面積は、住まい方の履歴である

家のなかで畳が占める面積は、その家の住まい方の履歴を示す。増えているのか、減っているのか。どの時期に、どう変化したのか。この面積は、家族構成の変化や、祖父母との関係の濃淡を、設計図のなかに静かに記録してきた。マンションの和室が消えつつあるという事実は、この記録の方式そのものが、いま書き直されている最中だということである。